冬コミペーパー用SS




「それでは、こちらはお預かりいたします」
 リンナの言葉に頷いて見せた。
「ああ、頼む」
 先ほどまで羽織っていたマントと、腰に提げていた剣。引き締められている表情が、ほんの少し緩む。それが何故かとても可愛らしく見えて、ベルカも少しだけ口許を緩めた。
 これから、オルバス公の使者に会わねばならない。和んでいる場合ではないのだが、リンナのそんな様子を見ていると、どうしても微笑ましいような気分になってしまう。
 カミーノに戻った日、宴のさなか。見てしまったリンナとコールのやりとり。コールの方から、リンナの爵位について水を向けられた。正式な手続きは王府に戻ってからになりますが、彼の、ベルカの『一の従者』としての地位は既に確立されました。と、何の経緯の説明も無く告げられ、ひょっとしてあの日見てしまった事を気付かれているのではないかとひやりとした。もちろん、それを咎めだてすることはなかったけれども。
 それから、そう長い期間があった訳ではない。だが空いた時間を見つけては王子の従者としての振る舞いや職責職務などについても叩き込まれている様子だった。
 修道院から引き上げてきた荷車の上では、背にずらりと並んだボタンを外す際に指が震えていた。自分では届かない位置のそれをすっかり外してもらうまでにかかった時間はそう長かった訳ではないが、それでもなんだか――少し、焦らされているような気分になったのは、記憶に残っている。今ではこうしてマントを外したりする所作も淀みない。
 とはいえ。
(……ベッドの中ではすげえ緊張してたけど)
 ベルカとて行為の経験があった訳ではない。しかも、抱かれる側だった。ある意味、身を任せていればよいといえばそうなのかもしれないが、だから緊張するなというのはあまりに無理がある。しかしそんな状態のベルカから見ても、リンナの緊張ぶりは尋常ではなかった。ベルカの服を脱がせるのに、まるで自分が脱がされているかのように、灯りを落とした部屋でもそうとわかるくらいに真っ赤になっていた。そんなリンナの姿を見て、少しリラックスできたおかげで、その優しく愛しい時間を、存分に楽しめたのだ、というような気もする。
 今度抱き合えるのはいつになるだろう。こんな事を考えてしまうのは、目通りを申し出ておきながらずっと待たされているせいだ。
 外から聞こえる雨音が、ずいぶん強くなっていた。

あとがき的なアレ

冬コミのペーパー用に描いた絵とSSです。
2月号のあのシーン直前みたいな感じで…
色はてきとうです。

じゅうぶんだろうと思って持っていっていたペーパーがまさかの足りなかったので
次回からはもうちょっと持って行こうと思いました。