インテペーパー用SS




 ヘクトルの形見の羽根ペン。これはコールから受け取ったものだ。
『よろしければ、こちらを是非お使いになってください』
 カミーノに入ってまもなくのことだっただろうか。聖地では特に使う事もなかったのだが、こうして民を救うためという大義名分をもちこの地に着いてからは、なにかと筆記具が要り用になることが多かった。使い慣れた筆記具を持ち出す間があったわけでもなく適当なものを使っていたのだが、それをみとめたコールが差し出したのだ。
 かつてこの地、カミーノの近く。王太子直轄領で太守となった折にその地の職人に作らせたものだという。汎用品である、羽根の芯をただ削ったものよりも少し太いそれは、長時間の筆記の際に特に威力を発揮する。手にかかる負担が細軸のものと比べて明らかに少ないのだ。
 執務以外にも長時間ペンを握ることを趣味としていた兄らしい一品は軸がかたい木で出来ていて、金属性のものよりも手に馴染みが良い。それに寒冷地では、金属軸では指先が冷えきってしまうのだが、木軸のそれはむしろ暖かみさえ感じられるようだった。
 このペンを使って、主に書いているのは手紙だ。
 助けられなかった者の家族へ。それから、王府へ。オルセリートに宛てて何通も何通も書いたのだが、一向に返答が無い。人のみならず鳥まで規制されているのだろうか。それとも何者かに、手紙が渡るのを阻まれてしまっているのだろうか。それとも、読みはしたけれど返事を出す余裕すら無いとでも言うのだろうか。あるいは、あの男??キリコ・ラーゲンに握りつぶされているのか。
 もしそうであれば許しがたいことだ。とはいえ、それを確かめるすべすらない。純粋に届いていないかもしれないのだ。ならば王府に対し今ベルカにできるのは、こうして何通もの手紙を書くことを続けるのみ、だ。
 何度書いても同じかもしれない。只の徒労なのかもしれない。それでも、ベルカはそれをやめようとはしなかった。兄の遺品をこうして使う以上、簡単に諦めてはいけないという思いもあった。
 彼の人は最後まで諦めなかったのだから。
 そしてそれを見ていたのは、その従者であるコール。今はここにはいない、自分の従者??かつてたったひとりだった『国民』の主として恥じないように、誇れる王子であるように。
 こんなことで、こんなところで、諦めてはいけない。
 ベルカはただ、無心でペンを走らせた。

あとがき的なアレ

インテのペーパー用に描いた絵とSSです。
新刊の表紙で兄上が持ってるのと同じつもりです。
手の甲にくちづけるときに持ってるのと同じつもりです。

つもり…です……