めりくり



「はあ、めんどくせーけど仕方ないな」
 サンタとしての正装に袖を通し、ベルカはひとつ、息をついた。
「赤い服もお似合いですよ」
 既にトナカイの儀礼服に身を包んだリンナが微笑む。
「ファーがついてるから、あったけーのはいいんだけど布が滑らないから着づらいんだよな。ウィッグの毛巻き込んじまうし。なあ、手伝ってくれよ」
 ケープの自力での装着を諦めたベルカからそれを受け取り、肩先の金具を探る。
「殿下、恐れながらその、今日は言葉を……」
「ああ、そうでしたわね」
 素の[ベルカ]を仕舞い込むと、どこからどうみても可愛らしいサンタクロースのお嬢さんだ。
「それにしてもどうかしているわ。サンタは全員若い女性でなければならない、なんて決まり事…」
 かといって支部に該当の人物が送られてくる訳ではない。当然人手が足りないので、こうして女装させられる者が後を絶たない。
 でも、よくお似合いですよ。
 口に出せば殴られるのはわかりきっている一言を飲み込み、リンナはベルカ──今は[マリーベル]──のケープの金具を止めた。
「マリーベルさん、去年と同じ手筈でよろしいですか?」
 そちらの名前で呼ぶとじろりと睨みつけられた。
「そんな……ふたりっきりの時くらい、ベルカとお呼びください……っつーか、別にまだ言葉がどうのとかいらねーだろ、俺とおまえしかいねーんだし」
「そ……それもそうですね。殿下」
 私がときめくだけです。
 こちらも、胸にしまい込むことにした。

「……で、手筈の件ですが」
 ああ、と手を振った。
「ん。去年と同じでいいぜ。よろしくな」
 途中まではリンナがそりをひき、明け方近くなってプレゼントの量が減ってきたらいったん支部に戻り、そりを置いて今度はリンナが直接、[マリーベル]を背負って夜空を駈けるのだ。どういう仕組みかはよくわからないが、頭につけたトナカイの角はリンナにその力を与えてくれる。
「はい。私としてもその方が」
 本部としてはそりを引くイメージを壊したくないらしく一部にはよく見られていないようだが、支部ではその行動はむしろ歓迎された。
「そりの重さも、結構なものですし」
 更に言うと、本部の方ではそうでもないが、[マリーベル]やリンナが所属する極東支部では住宅が密集しており、そりがひっかって降りられないことがままある。現場と上層部の意識の乖離だ。
 たいていの組はそりを停められるところに停め、そこから各戸に配達を行うのだが、それだとどうしても時間にロスが生じる。
 そうして時間を食い、夜のうちに配達が終わりそうにない状況になってしまった組は支部に助けを求めるのだが、なにぶんかきいれ時。どこもだいたいぎりぎりの時間でまわしている。
 去年初めてこの方式を採用し、身軽になったリンナと[マリーベル]がいくつもの組を助けて回った。
 おかげで一時は絶望視された夜明けまでの配達が無事完了し、1年経った今も、暁の助け手という二つ名で呼ぶ者が一部にはある。

 出動準備をしらせる鐘が鳴った。
「さて……いっちょやるか。リンナ!」
「はい、殿下!」
 蹴回しをたっぷりとった上着を豪快に翻す[マリーベル]に見惚れていたリンナだったが、慌てて立ち上がった。
 決戦は金曜日。

BACK





あとがき的なアレ
遊行寺たま先生のブログのクリスマス絵を拝見し、
燃え滾った勢いで書きました。
キャラの崩壊が進行している点については今は(ずっと…?)目をつぶってください