電波塔のライツ



 高台に上ると、街の灯りが見える。
 コンコロルやホクレアーー[アモンテール]の奴らは、コルジオラ結晶の光を生活に利用しようとは思わなかったようだ。
 ただ光輝く洞窟として、神の座す場所として信仰の対象にするのみだったということだ。
 馬鹿な奴らだ。
 いや。これも俺のためのカミサマノオミチビキ、ということにしておくか。
 そんなことを考え、笑みを浮かべる。

 何しろ、それを知らないが故に、俺に利用されることになるんだからなあ。と。


 アゼルプラード。
 俺の箱庭。
 俺の国。

 おとぎ話になぞらえた建国。
 集落が村に、町に、そして、国に。

 
 ロヴィスコ殺害後、聖戦と称した数年に至る戦いに勝利した。
 侵略に次ぐ侵略。
 そして治世。
 国を造るということ、それは容易にはいかなかった。
 脅迫と暴力だけではいけない。それでは、自身の背を狙う人がひとり増えるだけのことだ。
 人心を掌握すること。
 民の不満を取り除くこと。

 治水の概念はライツも持っていた。水を制するものはその地を制する。
 トライ=カンティーナの歴史を振り返ると、やはり史書の前半は治水に終始するのだった。
 まともに学校も出ていないライツだったが、少なくともコンコロルよりは、概念の知識という点では一日の長があった。

 反乱する河には堤防を。
 野を駆ける獣から身を守るための城壁を。
 城壁は、ホクレアの弓矢から身を隠すのにも有用だった。
 少しずつ、少しずつ。
 それまでの集落での生活よりも、城壁の中で、堤防に守られ、光枝結晶の光を利用しての便利な生活を求める人が増えてゆく。
 
 いつしかライツの支持者はすっかり増え、おとぎ話の主人公のように「英雄王」と呼ばれるようになっていた。

 

「コーネリア」
 薄闇の部屋、奥にいるだろう人物に声をかける。
 風の噂では[聖戦]のあいだに子を産んだと聞いた。
 今はその子供さえ、どうなったのかわからない。こちらに無理矢理連れてきて、后としたときには既にその子は居なかった。

 反応は、無い。
 船に乗っていたときは気丈で、ほかの船員どころか囚人たちとも渡り合っていた彼女は、こちらに連れてきたときにはまるでなにかをどこかに落としてきてしまったかのように、すべてに対する反応が薄かった。
 ここに連れてきたときも。
 后にすると宣言したときも。
 夜を過ごしたときも。
 ライツの子を宿したときも。
 その子を産んだときも。

 窓辺に座り、ただ外を見ているだけの彼女の手首を掴み、歩きだした。
 
 高台に上ると、街の灯りが見える。
 人々のいとなみが見える。
 朝も昼も、ここはとても眺めがいいが、人の存在が実感できるのは夜だった。
 光がその存在を教えてくれる。

 たった百人そこそこの船を束ねていたあいつよりも、俺の方が優れているだろう? この街の人間は全員、俺のことを尊敬しているんだ。
 もう字だって読み書き出来るんだぜ?
 誰ももう俺のことを囚人だなんて後ろ指を指したりしない。
 俺は英雄王ライツI世として、滝のこっちの世界で認められたんだ。

 なのに何故、おまえは俺を見ようとしない?
 コーネリア……
 おまえに認めてもらいたくて、良いことだってたくさんしたんだぜ?
 俺は、あの海からずっと、おまえだけを見ていたのに……。

 ライツに伴われ高台へとあがったコーネリアだったが、その反応の乏しさは相変わらずだった。
 焦点の定まらない目でぼんやりと街の灯を見る。
 ふらつく視線が少し上がる。
 ある一点にそれがとまり、コーネリアは涙で滲んだ目を伏せた。
 金星。またの名を、ステラ・マリス。
「ロヴィスコ……」
 名前を紡いだ声はあまりに小さく、高台の強風にかき消されライツには届かなかった。  

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あとがき的なアレ
新年から暗くてすみません…!
大好きな谷山浩子さんのうたに「電波塔の少年」というのがあるのですが
「俺の箱庭」という言葉に反応した私が「ライネリで電波塔の少年…!」となり
うたをなぞってSSに仕立ててみました的な。