※「真綿の鎖」「手段としての」からほんのり続いております。未読の方はそちらを先に読まれることをお勧めします

仮面と柵



「……なるほど。一人くらい気づかぬものかと思っていたが、これはなかなか」
 感心したようにキリコが呟いた。
「……る、せえ」

 睨みつけるベルカの視線を受け流し、キリコは薄笑みを浮かべた。
「ですが、2度同じ手は通用しませんよ。ベルカ王子殿下」
 それとも、マリーベル、とお呼びしたほうが? という言葉に、激昂し、目を見開いた。
「な……んで、てめーがその名を……あいつに、リンナに何をしたっ!?」
 一瞬で良くない想像が頭を過ぎる。
 ラーゲンの薬。
 頭のなかみを壊す薬。
 ひとをあやつり人形のようにするという薬。
「ご安心を。オルハルディにはほんの少し、真実を述べる薬を使っただけですので。例の薬は……まだ実験段階ですので。まあ、場合によってはオルハルディが臨床試験の対象になるかもしれませんが」
 最悪の想像、よりはマシなようだ。が、予断は許されないといったところか。

「それでマリーベルの名も知れるところになった訳ですが……、オルハルディはあなたの変装した姿にすっかり熱を上げているようですね。まあ、私の口から申し上げるまでもないことかもしれませんが」
 まったくそのとおり。知っている。

「で、どうすればいいってんだ」
「そうですね……あなたの身体の提供、でいかがでしょうか。オルハルディがそこまでこだわる、あなたの。もちろん、事がすみましたらすぐに解放して差し上げますので」

 ベルカ──[マリーベル]個人を抱きたい、というのとは、少し違った感情。キリコは薄く笑みを浮かべた。
「まあ……私では気分が盛り上がらないでしょうし、ご要望がありましたら、あなたにも目隠しをして差し上げますが」
 ほかの誰にしたのか、という部分は語らなかった。
「いらねぇ……」
 睨みつけるベルカに、ああ、そうでした。と付け足した。
「それから……私には男色の趣味はありませんので、くれぐれも振る舞いにはご注意をいただきたく存じます。たとえば殿下ご自身が勃起なさるのは構いませんが、私の目に触れないようにお願い致します」
 キリコの言葉尻だけは丁寧な、しかし勝手な言い分に、ベルカは奥歯が折れてしまいそうなほど噛みしめた。


 ドレスを纏ったままのベルカを抱き寄せる。
 緊張した様子で硬い表情が、加虐心を煽った。
 首元を暴き唇を寄せる。自身の髪と同じ色のウィッグはよく手入れされており、上質の香油がふわりと香った。首筋を舐め上げると、悲鳴に近い吐息が僅かに漏れた。
 オルハルディが、[マリーベル]がキリコによって陵辱されたと知ったらどんな顔をするだろうか。
 怒るだろうか、それとも一度見せた、深い絶望の底のような色の瞳をするだろうか。そんな事を考えると、妙に気分が高揚した。

「殿下、ご自身で潤して解していただけますか」
 言いつつベルカに渡された小瓶には、とろりとした液体が入っていた。
「効果のほどは、殿下ご自身がよくご存じだと思いますが……オルハルディの事でも考えて弄られるのがよろしいかと」
 含み笑いに、頭に血が上るのを感じた。が。
(リンナを……)
 女装で潜り込み、密かに脱出するつもりだったのが見破られてしまった。一度この身を[提供]するのと引き換えに、リンナが解放されるというなら、安いものだ。
(リンナ、おまえはこれを知ったら喜ばないかもしれないけれど……)
(でも、カミーノの時とは違う)

 小瓶の中身を掌にあける。
 確か。初めて結ばれた時にはこうして使っていた。
「リンナ……」
 自分身体の一部分とはいえ、触れるのには若干抵抗があった。
(あいつは……こんなとこを、舐めてくれさえした)
 そのときのことを思い出すと、自然と身体が熱くなる。
 そうだ。その時もキリコが傍にいたのだった。
(リンナ……)
 目を閉じ、その時のリンナの一挙手一投足を思いだそうとする。
 ぬるりとした感触。
 二度目の時のように、ゆっくりと息を吐きながら指先を潜り込ませる。違和感はあったが、激痛を伴うようなことはなかった。
 体勢的に、少々腕が辛かったが、そのまま中を探る。
 あの日何度も擦り責め立てられた部分。
(リンナ…………!)


 スカートの中に手を突っ込み、眉根を寄せ、中を探るベルカは確かに悩ましかった。
(ふむ……中身を知っていても…存外、自身を誤魔化せるものだな)
 下衣をくつろげ、自身のものを屹立させる。
 自分の指をくわえ込み、時折、肩を揺らすベルカに声をかけた。
「さてそれではマリーベル殿下、ご準備ができましたら、ご自身で乗って動いていただけますでしょうか。ほかの方法ではおそらくこの状態を維持できませんので」
 口調だけは、変わらずあくまで丁寧に。
 ベルカは覚悟を決めると指を引き抜き、ゆっくりとその上に腰を落とした。
 リンナと、初めて結ばれた時のようには強引でなく。
 しかし、二度目の時のようにうまくはいかず、生理的な涙が溢れた。
 アルロンの薬はベルカに熱を与え追い立てたが、リンナとのときのようなとろけるような快楽は襲ってこなかった。
 ただの、熱。
 しかし薬の効果を伴ったそれは、徐々にベルカの身体を蝕んで行った。
 動かしかたなどわからなかったが、その熱を追うように、中の様子を探るように、ゆっくりと動く。
 次第に、吐息にも艶が混じっていく。

「……ところで、マリーベル殿下、すぐそこに続きの間の扉がありますが…その裏に、オルハルディがいるとしたら……」
 キリコの言葉に、ぴたりとベルカの動きが止まった。凍り付いたといっても良い。
「な……んだって……?」
「マリーベル殿下、きちんと動いていただけないと終わりませんよ」
 ベルカの言葉は無視し、腰を掴んでがくがくと揺さぶった。良い部分を掠め、ふあ、と声があがる。
「それから言葉にもお気を付けいただかなければ、萎えてしまいます」
 ウィッグの毛をかきあげ、首筋に触れる。
「まったく、あなたがたは……ちょっとした冗談をすぐ本気にしますね」
 お望みでしたら現実にしてもいいですけれど、と続け、続きの間との境のドアの前に立っていた部下に何かの合図を送った。
「ちょ、待っ……」
 焦って腰を浮かせたベルカの肩を押さえ、逃げ場を無くしてから容赦なく突き上げる。
 悲鳴に近い嬌声が部屋に響いた。それから体勢を入れ替え、何度も、何度も、何度も。

 キリコのものが引き抜かれると、潤滑に使ったアルロンの薬とともに白濁の液体がとろりとこぼれ、ドレスを汚した。
 放心状態のベルカをそのままに、早々に衣服を整えると扉を開けさせた。

「でん、か……」
 覚束ない足取りで入室したのはやはり、リンナだった。
「どうして……私などのために、御身を……そんな……」
 起きあがれない寝台の横にがくりと膝をつく。
「リ、ンナ…」
 一番見られたくなかった相手。
 自身を助けるため、ベルカがこんな目に遭ったと知れば自分自身を責めるだろうと、わかっていた。だから。
「おまえには、見せたくなかった……」
 が、リンナは首を横に振った。
「事が起きてしまった以上、知ることが私の義務でもあります……私のためにこんな事態を招いてしまい、申し訳ありません、殿下……」
 ベルカの乱れた着衣を直し、そっと抱きしめた。

「──…」
 どちらも絶望の淵に堕ちることも、責めることもなかった。そこにあったのは、互いを思い気遣いあう純粋な気持ちであった。
 心に掛かった霧をそのままに、キリコは踵を返し部屋を立ち去った。  

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あとがき的なアレ
Twitterで千(ダイイングメッセージはここで途切れている)