ただ欲しいから
夢現のまま、口づけに応えた。
頬に触れる手を握り、腰から背に向かって撫で上げる。
何度か繰り返した後、そのまま前に──
「コーネリ…ア……?」
あるはずのものに手が触れず、意識が急速に浮上した。
「よお、やっとお目覚めか」
明らかにコーネリアのそれよりも低い声。
触覚のように跳ねる金色の髪。
「ライツ……どうして」
船長室の鍵はかけたはず、という言葉にへらりと笑った。
「まさか忘れちまったのか? 俺たちゃ犯罪者だぜ?」
道具がないと少しばかり困難だが、時間さえかければ鍵のひとつやふたつ、簡単に突破できる。
「安心しろ。入るときにはちゃんとかけたから、誰も助けには来ないだろう。だいたい口ではんなこと言ってっけど、こっちは準備万端みたいだぜ?」
いつの間にか掛布の下に進入した指先が着衣の上から形をなぞるように撫でる。夜着はその刺激をシャットアウトするには薄すぎた。
「やめ、ろ……」
「俺を追い払ってどうするんだ? 医術師の女のことを考えて一人でヤんのか?」
今度は握り込み、親指で先端を円を描くように撫でる。
「そういえばさっきもあいつの名前を呼んでたよなあ。俺らにはツンツンしてっけど、おまえには甘ったるい声で囁いたり、こうして乗っかって誘ったり腰振ったりするのか? どんな声で啼くんだ?」
「やめろライツ、コーネリアはそういう……」
「そういうんじゃないならどういうことだよ」
いつしかライツの視線の先にいるようになったコーネリア。ここのところ、ロヴィスコに対する態度が少し、違う。
おそらくは、隠しているのだろう。注意深く見ている者でなければわからない程度の差異。だが、ライツは気付いてしまったのだ。
圧し掛かったまま肩口をおさえる。
体格にそう差はない。こうしてしまえば力の入れ易さの差で、圧倒的にライツに分がある。
そして掛布を蹴落とし、強引に下衣をはぎ取った。
「俺ら囚人には手を出すななんて言っておいて、自分で手を出すとはご立派な船長サマだ」
「ちがう……私とコーネリアは」
外気に晒された自身に、とろりと油のようなものを塗り付けられて眉を寄せた。
ライツも下衣を脱ぎ捨て、その上にまたがる。慣れた様子で、本来そういう用途ではない部分でロヴィスコのものを容易に飲み込んだ。
「じっとしてろよ。そしたら言い訳も立つだろ」
「そういう、問題では……!」
ぺろりと唇を舐められ、言葉が途切れた。
「気持ち良けりゃあ誰でもいいんだろ? 穴があれば、男だって女だって構わねーんだろうが」
「違う……私はコーネリアを、心から愛している……!」
ロヴィスコの言葉に、けっ、とライツは表情を歪めた。
「愛なんてのは、女を騙すためのただの口先の誤魔化しに過ぎねえだろ」
だいたいなんであいつが好きだと思ったんだ? 選択肢が殆ど無いからだろ? もっと他にも女がいたら、本国が無事だったらどうだ? あいつの事を好きだとか思ったか?
矢継ぎ早に浴びせられる質問。
その間にもライツは的確に腰を動かし、ロヴィスコを追い立てる。
「檻ん中じゃ女なんていねえからな…掘り掘られなら気持ちよくなれたモン勝ちだ。おまえらよりよっぽど正直になれるぜ」
荒ぐ息、艶を帯び始めた声を、よりによって色っぽいと思ってしまった。
どうにか気を散らそうと努力したものの、ライツのテクニックは相当のものだった。
「ほら……もう中で、ピクピクしてるぜ? 我慢しねえで……イっちまえよ」
「く………」
限界を迎えそうになり、眉根を寄せる。
唇に唇を押し当てられ、噛みしめていた歯列にそって舌先でなぞられる。
その舌の熱さ、くちびるの意外なほどの柔らかさに。
「────ッ!」
ロヴィスコはライツの中に精を放った。
「あ……くッ……」
熱い液体がロヴィスコの顔に降り懸かる。ライツもまた達したのだった。
さすがにぐったりした様子で呼吸を整えていたが、不意にライツが立ち上がった。
力を失ったものが抜け落ちるとともに、腹にぽたりと滴るのは、紛うことなく自分の精液だった。
「……これで、わかっただろ」
局部を拭き取ったタオルを部屋の隅のゴミ箱に投げ入れると、ライツは早々に着衣を整えて部屋を立ち去って行ってしまった。
ロヴィスコはただ、この受け入れ難い事態に呆然としていた。