一段一段



「も……申し訳ありません、殿下」
 呼び止め、弾んだ呼吸を整える。
 ある程度動けるようにはなったものの、まだ身体がついていかない。従者としてこんな状態では役目を果たすことが出来ないと忸怩たる思いを抱えつつも、それでも側にいたいというのはエゴだとわかっている。それを許してくれたベルカに、つい甘えていた。
「あ、悪い」
 くるりと振り返ったベルカのプリムシードが跳ね、陽光を受けて煌めいた。

 それに目を奪われていると、不意に視界が翳った。
「んー……」
 視線を上げると、ベルカが何かを考えている様子でひとつ上の段まで近づいてから、一歩戻って1段上がる。
 そうしてベルカは不意に伸べた手をリンナの頬に添え、
「殿下?」
 そのまま腰を屈め、額に唇を押しつけた。

 ふわりと風が吹き、同時に、リンナの額からベルカの唇が離れた。
 こつん、こつんと足音を立て、さらに2段降りて、リンナの横、同じ段に並んだ。
「おまえさ、身長いくつだよ。階段1段じゃあまだおまえの方が高いもんな……2mくらいあるだろ」
 見上げられ、苦笑した。さすがにそこまで長身ではない。
「189……だったかと思います」
 サナで、最後に受けた健康診断では。
「ずりぃ」
 言葉に苦笑する。
「俺にちょっと分けろ」
 もちろんそんなことは不可能だ。
「殿下はよく召し上がられますし、なにより成長期でいらっしゃいます。これからまだまだ伸びますよ」
 初めて出会った時よりも、幾分しっかりした体つき。
 今ならば、抱きしめれば性別を間違えることもないだろう。
 最近ではすこし声も掠れてきていて、変声の兆候を見せている。
 少しずつ、大人になっていく。
 俯いて歩いていた少年が、王の子として胸を張る青年に。
 感慨に浸っていると、ひょいと手を差し出された。

「こうすりゃいいよな」
 甲を上に伸べられた手を、すくうように取る。
「お気遣いに感謝します」
 微笑んで先に立った。
「ゆっくりでいいからな、無理だけはするなよ」
 もう二度とおまえを失うのなんてごめんだからな。と、紡がれた言葉は、掠れてはいたがリンナの耳に届くには十分だった。
「あなたにお許しいただけるなら、どこまででも供をさせていただきます」
 ベルカの歩む先、この国の行く先へ──。  

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あとがき的なアレ
エロシーンのある話ばっかり書いてたので
口直し的な名感じで。短くさくっと行きました。