手ほどき
「ほーらベルカ、御者さんだよー!」
哲学の勉強を脱走して木の上。やわらかく風の通るここは、とても居心地がよかった。
鳥の声と風の音に微睡む。
その静寂を破ったのは、ベルカの兄たるヘクトルだった。2頭立ての馬車を操り、ベルカのお気に入りの場所へと突進してくる。
ベルカのほぼ真下でそれを停めると、上に向かって声をかけた。
「あ、あにうえ……?」
呆気にとられていると、ヘクトルが上に向かって手を広げた。
「ほら、おにいちゃんに向かって飛んでこーい!」
流石にそんな訳にもいかない。ベルカは上ってきたのと同じように木から降りた。手と服に付いた樹皮を払い、ヘクトルに問いかける。
「あにうえ、準備はもういいの?」
確か、近いうちに領地に向かうと聞いた。
しかしヘクトルはベルカの頭をぐりぐりと撫で、満面の笑みを浮かべた。
「脱走してきた」
目を丸くする。
「ハハハ冗談だよベルカ。ちゃんと支度をしてから脱走したから安心しなさい」
結局、脱走はしたのか。疑問符と、そんなことをしてしまっていいのかとツッコミたい気持ちがない交ぜになる。
「出発したらしばらくおまえたちとも会えないからな。今のうちにと思って、そっと馬車を持ち出してしてきてしまったよ」
こっそりと馬車を持ち出す。そんなことが可能であるということ、可能にしてしまったヘクトルに驚く。だがしかし、ヘクトルならやりかねない……そう思わせるだけのものがあった。実際今は従者もついていない。
「ふたりに、大事な話があるんだ」
自然と居住まいを正しつつも、ふたり? と馬車を見遣ると、中からオルセリートが降りてきた。同い年だが、あまり交流はない。この生真面目で優秀な異母兄弟と一緒にいると、どうにも居心地が悪いのだ。
「ベルカ!」
オルセリートの方にはそのようなわだかまりは無いと見え、他の皆に向けるのと同じような笑顔を向けてくる。会釈だけしてヘクトルに向き直った。
「あにうえ、それで、お話というのは……」
オルセリートもヘクトルの正面、ベルカの横に並んで立つ。ふたりを順に見、ヘクトルはゆっくりと口を開いた。
「これから言うこと、することは、とても重要だから、心して聞いて欲しい。……が、ここはよくないな。ふたりとも、一旦馬車に乗りなさい」
促されて馬車に乗り込む。さすがに本職の御者のようにはうまくゆかず、がたがたとよく揺れた。が、幸いにして乗車時間はさほど長くはなかった。声を掛けられて降りたのは、古い水車小屋の前。
城から隠れる方向に馬車を移動させ、ヘクトルはその扉を開いた。
「ここは……?」
中には既に営みの形跡はなく、ただ藁が積まれているのみだった。
「古い水車小屋で、今は使われていない。格好の隠れ家というわけさ」
言葉に、オルセリートが気遣わしげにヘクトルを見上げる。
「あにうえ、お話というのは……そのような、隠れて行わねばならないものなのですか?」
ヘクトルが重々しく頷いた。
「これは……王家の血にも関わる大切なことだ。我々は英雄王の血に連なるノクティルクス王家の者として、血を残すという責務がある」
王家の血。
それは確かに妾腹の自分にも流れている。
「これを見て欲しい」
ふたりの前に1冊ずつ差し出されたのは、本だった。
「これは……」
それぞれ受け取り、固唾を呑んでページを繰った。
ぱたんっと音を立てて即座に閉じたのはオルセリートだった。
「あああ、あにうえ、その、これは……何か、お間違いではありませんでしょうか……」
頬を真っ赤に染め上げ、本を差し出す。
ベルカはというと、その挿絵に釘付けになっていた。
妙齢の女性の後ろ姿。呼び止められたかのようにこちらを見返りかかった絵。露わになっている首を、高く結い上げた髪が申し訳程度に隠している。あと少しでも頭を動かせば髪は容易に首から落ち、むき出しの首筋が見えるだろう。そんな、妄想をかき立てるチラリズム。
ひょい、と股間を撫で上げられて飛び上がった。
「んー、ベルカはまあ合格かな。オルセリートはもうちょっと勉強しないとな」
はっとしてヘクトルを見上げる。
「あ、あにうえ、もしやこれはその……」
ヘクトルは今度は満面の笑みを湛えて頷いた。
「トト・ヘッツェンは上流階級の嗜みだぞ!」
曰く、いずれはどこぞの令嬢と結婚し、子を成すことが一種の義務でもあるのだから、まずは知識を得、少しでもそれを楽しめるように、興味を持つことが重要である、と。
「……いわば興味は自分の武器だ。特性を把握し、弱点を克服して長所を伸ばす。そして磨くことが重要だ。わかるな?」
ヘクトルは至って真剣だが、何せ内容が内容である。どうにももぞもぞと落ち着かない。
「……まあ、講釈はこれくらいにしておいて、ここからは実践だ。ふたりとも、下だけでいいから脱ぎなさい」
言いつつ自分も下衣をくつろげ、下着もとると藁の上に先ほどの馬車から持ってきたクッションを置いて座った。
恥ずかしさはもちろんあったが、ベルカも兄に従う。オルセリートはしばらくもじもじしていたが、やがて覚悟したらしく脱衣した。春の陽気に暖められた空気のおかげで、寒くはない。
「さっきの絵を思い出してごらん」
ベルカの頬に朱が差す。未だ未成熟なものも反応し、小蛇のように鎌首をもたげた。
「オルセリートは……うん、反応はあるな」
真っ赤になって俯いたオルセリートの足の付け根でも、ぴょこんと存在を示すものがあった。
「ふたりとも、お兄ちゃんをよく見なさい」
5つ上の兄のものはベルカたちに比べるとだいぶ大きく、まるで別の生物のように見えた。実際は、それでも未だ成長途上であるのだが。
「勃ちあがったら、こうして擦り上げるんだ」
手指を輪にして握り、縦尺にそって上下に動かす。次第に吐息が荒く浅くなり、熱が籠もる。
「おまえたちも、やってみなさい」
何かの拍子に起きあがるその部分。
身に灯る熱の意味も知らなかった。
そこに、ヘクトルが解答を与えた。
手で握るには少し小さいそれを、指で挟んで擦り上げる。
「ふ……っ」
それはとても快い刺激で、つい追いかけてしまう。
「く……ぁ……」
身の内に膨れ上がった熱は、少しずつ高まり。
「ふぁ……!」
不意に、手の中で弾けた。
経験したことのない感覚と、そこから吐き出された液体の見慣れぬ色と質感に、半ばパニックになってヘクトルを見上げる。
そんなベルカの頭を、ヘクトルはにっこりと笑んで撫でた。
「そんな顔しなくていい。健康だって証拠だよ」
悲鳴に似た声に振り返ると、オルセリートもまた、手を白濁の液体で汚していた。ヘクトルは同じようにオルセリートの頭を撫で、一安心だと笑った。
「次はふたりでお互いのをしてごらん」
一瞬、言葉の意味が分からなかった。
ベルカとオルセリートは真っ赤になった顔を見合わせ、次いでヘクトルの顔を見た。一見してあまり似ていないふたりだったが、示し合わせたように動きが揃った。
「あ、あにう……え……?」
「それは……どういう……?」
ヘクトルはまた真剣な表情をした。
「自分が気持ちよくなることと同じくらい、いや、それ以上に重要なのは、相手に気持ちよくなってもらうことだ。ふたりでお互いに観察しあいながら、どこが気持ちいいのか探して、イかせてあげてごらん」
その言葉は、とてももっともらしく聞こえた。
ベルカもオルセリートも、真剣そのものだった。
互いの反応、息づかいに注意を配り、拙い手際ながらもゆるゆると追い立てていく。
次第に、吐息が混ざりあうような錯覚に陥っていく。
自分でするのとは違う、予想していなかったところに与えられる刺激による快感と、微妙にツボからずれるもどかしさに、腰が揺れる。
「ふ……っぁ……!」
やがてオルセリートのものがぴくん、ぴくんと震え、手の中で爆ぜた。と同時に放心してしまった様子で、動きが止まる。
「あ、あにうえ……」
寸前まで高められた熱を持て余し、ヘクトルに助けを求めるような視線を送る。すぐに視線に気付き、ベルカものと自分のものを一緒に握り込んだ。
「よし、じゃあお兄ちゃんと一緒にイこうか」
行為の後、放心しきったオルセリートの着衣をふたりがかりで直す。強すぎる快楽のためか羞恥のためか、伝う涙をそっと拭った。
「……ぼく、僕は……」
切なげなため息を漏らし、呟いた。
「こんなのは……いけないことだと、思う……。いくら、あにうえの言うことでも……」
自涜。手淫。トト・ヘッツェン。
「……そうか。まあ、おまえがそう思うなら、無理矢理押しつけるつもりはないよ」
本当はこういうコミュニケーションでもベルカと仲良くなってほしかったんだがなあ、と、ヘクトルは心の中でだけ呟いた。
それから数日のうちに、弟たちとまだ幼い妹を残し、ヘクトルは城を出た。
王太子として、治世の一歩を踏み出したのだ。
あとがき的なアレ
あとがき的なアレ
Twitterで(いつもだいたいそう)
あにうえによるベルカとオルセリートへの手ほどきという話で萌えて書きました
あとがき的なアレ
Twitterで(いつもだいたいそう)
あにうえによるベルカとオルセリートへの手ほどきという話で萌えて書きました