その手



「ふ……ぁ、あっ……すごいよ、ベルカ……えこたん、も、イっちゃいそ……」
 吐息混じりの声と、揺さぶる度にぐちゅぐちゅと音を立てる結合部。
 ベルカの下で切なげに呻いていたエーコが身を捩り、首に腕を回した。
 その腕に力を込められ、キスをねだられる。
 ベルカはそれに応え、唇を重ねた。触れるだけの口づけを繰り返した後、ゆっくりと舌を差し入れる。
「ん……ふ……んぅっ」
 舌先で口蓋をなぞり、強く吸う、短い声も奪われたまま身を震わせ、エーコが果てた。
 ひときわ強く締め付けられ、ベルカもまた吐き出した。

「……、ごめん、エーコ……」
 慣れている、という言葉通り、行為の直後だというのに手際よく後処理を済ませ、再び寝台に身をおさめたエーコに、声をかける。
「どうして? ベルカが謝る事なんてないじゃない」
 きみの淋しさにつけこんだぼくが謝るならともかく、という言葉に首を振る。
「そういう問題じゃ、ねーんだ……」
 こみ上げそうになる涙と嗚咽を押さえつけるかのように、手で顔を覆う。
 最中についリンナのことを想うのも、リンナとの肢体や反応の差を半ば無意識に比べてしまうのも、事後にこうして自己嫌悪に陥るのも。みんなエーコに対しては申し訳ないことばかりだ。
 たとえそれが、本当にエーコが望んでいる行為だとしても。
 ぬくもりを求める気持ちはベルカも同じで、差し出された手を取ったのは紛れもなくベルカ自身だった。なればどうして、自分自身を責める気持ちを止められようか。
 ──そう、くちづけたのはエーコからだった。
 寝台の上ひとり身を縮めていたベルカの隣におさまり、寒いと言って身を寄せた。
 止まらぬ涙に対処できずにいたら、目元に口づけられた。次いで、唇に。
 そのあたたかさに、縋ってしまった。
 リンナがいない淋しさを埋めるようにエーコを抱いた。その後決まって自分が嫌になると、わかっている癖にそれをやめられなかた。
 何度エーコを抱き、何度こうして自己嫌悪に陥っただろう。
 言葉通り『慣れて』いるエーコの手管は──幼い頃、ラーゲンの嫡子として仕込まれたというそれは──相当なもので、おそらく純粋に行為で快楽のみ追求するのであればリンナ以上の相手かもしれなかった。
 だがベルカは割り切るには若く、そして潔癖すぎた。エーコに縋ってしまうことも、始めてしまえば行為に耽溺することも、そしてこんな風に考えてしまうことすらも、嫌だった。
 言葉に詰まり、ただ首を横に振る。
「ごめん……ごめん、エーコ……」
 そして、リンナ──。

 誰もリンナの代わりになんてなれないのに、リンナの代わりとして誰かを見るなんて、リンナにもその誰かにも申し訳が立たないのに。
 いつでも無意識のうちに求めている。
 その姿を、声を。ぬくもりを。
 夜毎にそれを思い知らされる。

 また溢れ出した涙を、手の甲で拭った。

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あとがき的なアレ
5巻のお風呂に入ってるシーンを見てふとこう浮かんでしまったので…