名前の由来


「ねぇねぇコールたんっ♪」
「はい、何でしょう?」
 片目が見えなくなったというのに、変わらぬ陽気さで話しかけてくるエーコ殿に、コールは笑顔で応じた。
 彼の後ろからは手持ちぶさたなのか、エーコ殿が心配なのかははかりかねる様子で、ベルカ王子もご一緒だ。
「コールたんのホクレア名は『天鼓』なんだよね?」
「ええ、そうです」
 今は亡き主人であるヘクトルと共に頂いた、誇りある名前だ。
「『天鼓』とは雷鳴を表す言葉だと言うことです」
 常は姿が無く、時折鋭く光る──そんな風に主を守ることを理想にしていた。
 今は、主の命と願いを叶えるために。
 内にある想いをひっそりと込めて答えると、コールの想いとは反対にベルカ王子は眉をしかめて肩を落とした。
「雷鳴ってカミナリだよな……」
「ベルカってば何を今更」
 即座につっこむエーコ殿を、ベルカ王子はあっさり無視して、何故かコールに言葉をかけ続けた。
「いや、うん……ごめんなコール」
「は?」
 突然の謝罪に間抜けな返事をしてしまう。
 高貴な方には失礼極まり無いが、ベルカ王子は気にしていないようだ。
「ベルカはまだコールたんに謝らなきゃいけないようなことしてないと思うよー?」
 理由を探すコールよりも先に、エーコ殿がコールがはじき出した結論と同じ内容を主君の弟君に告げた。
「エーコ殿の仰るとおりです」
 謝る必要がないと重ねて言うと、決まり悪げに髪をかきあげた。
「あー……俺じゃなくて、兄上が……」
「ヘクトル様が?」
 歯切れの悪い返答に、再び疑問符が頭上を踊り始める。
 コールの困惑に気が付いているのかいないのか、ベルカ王子は至って真剣に、彼が謝罪を述べた理由を話す。
「こんだけ温厚なコールにカミナリの名前が付くくらい、兄上に説教してたんじゃないのか?」
「そん、な、ことは……ない、と思います、が」
 一瞬にこれまでの誇りだとかそういうものが崩れそうになりつつも、否定の言葉を何とか紡ぐ。
 決して、コールがヘクトル殿下に小言を言っていたのが名前の由来ではないと信じて。

 真実は、二人の大巫女に尋ねねばわからないのだから。


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いただいたのが外だったので外で読んでいたのですが、本編とのギャップに噴き出しました。

そんなわけで、「願いと祈りの間」の「おまけ」としていただきました! 名前の由来(コール編)です。
天鼓=雷鳴までは私もたどり着いていましたが、まさかそうつなげるとは…
おーみさん、素敵なお話をありがとうございました!